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last updated 1997/08/24

第101話(全130話)

ドラゴン!(3/3)




〈待って〉
 フィンフィンが声をかけてくる。
〈ケンプがぼくがやってみたいって言ってる〉
〈ケンプって誰?〉
〈あ。まだ紹介してなかったっけ。このドラゴンの名前らしいよ〉
〈名前があるの?〉
〈当然でしょ。ドラゴンは星の誕生とほぼ同じ頃から存在してるんだし、名前も代々受け継が
れるんだよ。ドレイコ、ケンプ、デューワンダー、他にもたくさんあるよ。こいつはケンプっ
ていう名前を受け継いだらしい〉
〈へえ〉
 ピートは感心し、ちいさなドラゴンをみつめてしまう。由緒あるドラゴンの血を受け継ぐも
の。そう思ってみると、ちいさいのにどこか威光めいたものが感じられる。ドラゴンのファン
だからこそ、そう見えるだけかもしれないけれど。
〈だから、ちょっとケンプにやらせてみてくれないかな。ぼくもドラゴンの力って見てみたい
し〉とフィンフィン。
〈何を?〉
〈決まってるじゃない。ピートがいましようとしていることをさ〉
 フィンフィンが言った。ピートは理解出来ない。出来ないまま、フィンフィンに横へどかさ
れ、穴の縁にはケンプが進み出ている。
〈ワーターをここまで持ち上げる気なの? でも、どうやって。こんなにちいさいのに無理だ
よ〉
〈ドラゴン相手に、無理だ、なんて言わないないほうがいいよ。気を悪くするから〉
 言ってフィンフィンはピートを黙らせ、ケンプの様子を見守れと目で続けた。
 ケンプはフィンフィンとピートのやり取りなど無視して、さっきからずっとダクトの下を睨
みつけている。ケンプには本当に力強さが宿りはじめていた。フィンフィンの背中にしがみつ
いていた、あの赤ん坊が一瞬にして少年のしなやかさを身につけたかのようだ。何がケンプを
変えたのだろう。ピートは考えて、それは自力で飛んだ、という自信によるものだとわかった
。空を飛べたらドラゴンはそれで一人前なんだ。だからもうケンプは赤ちゃんじゃない。ドラ
ゴンとしての血が、ケンプの内面を一瞬にして変貌させたんだ。
 ケンプの目に意思が宿る。強い意思が。その目が赤く輝きはじめる。瞳が、燃えはじめる。
 わずかに周囲の大気が歪んだ。ミシッとダクトが音を立てた。ギンッと空気が緊張した。ど
こかで何かがカチャカチャと鳴っている。見ると、それはマスター自身の体だった。金属の体
が、小刻みに震動しはじめている。ケンプの体内からものすごい熱気が放射される。火でも吐
くのだろうか、とピートは思った。ドラゴンは火を吐く。それがならわしだ。けれど、それ以
外にドラゴンにはどんな力があったろうか?
 考えているピートの目の前にゆっくりとワーターの体が上昇してたきた。ワーターはマスタ
ーのワイヤーなど使わずに、その重たい体を宙に浮かばせて、ここまで昇ってきたのだった。
もちろんそれがケンプの力だった。ドラゴンは大きな岩をも宙に浮かばせることができる。い
わゆる念動力《テレキネシス》だ。そういう力があるから、ドラゴンが火山の噴火を大きな岩
を下降に投げ込むことで止めさせた、とか、巨石文明を築くのに力を化した、とかという伝説
が残ることになる。巨大な岩を積み上げた遺跡の近くには必ずドラゴンか、その亜種のレリー
フが刻まれ、砕石場の近くにはドラゴン伝承が数多く残されている。ドラゴンは人間と魂の部
分で深く通じ合う存在であり、同時に岩をも動かし、人間の文明創生に力を化した「神」でも
ある。そんなドラゴンの力がいま、ワーターを宙に舞い上げてみせたのだった。
 ワーターは目をパチクリとさせてケンプをみつめた。ピートも同じ目でちいさなドラゴンを
みつめていた。フィンフィンは〈たいしたもんだね。これじゃやっぱり喧嘩するより死んだふ
りしてたほうが利口みたいだね〉とボヤくようにつぶやいた。みんなの視線を受けて、ケンプ
は満足そうに一度「うん」と自分にうなずくと、おもむろにフィンフィンの背中へと戻り、そ
こでいきなりクークーと眠りはじめてしまう。
〈赤ちゃんなんだな、やっぱり。疲れちゃったみたいだよ〉
 何だか少しホッとしたように言うフィンフィンに、ピートも思わず微笑んでしまう。
 ワーターだけが憮然とした顔をしていた。ワーターの心はピートにはわからないが、その表
情から察するに「ドラゴンなんかどうでもいいから、早くマリカ姫を捜しに行こう」と言いた
いのだろうと想像できた。
 ヴゥル。と唸るワーターに促されるようにして、ピートとフィンフィンは先へ進みはじめる
。マリカの気配はすぐ間近に迫っていた。フィンフィンが緊張する。ワーターもマリカの気配
をすぐそこに察知した。ワーターはフィンフィンほど慎重ではなかった。いきなりダクトの中
をマリカへと向けて突進するワーターを「駄目だ、戻れ!」とピートは制した。その声はご主
人さま大事のワーターの耳には届かない。ピートとフィンフィンが慌ててワーターの後を追い
掛ける。走るのが苦手なフィンフィンはピートに遅れた。遅れながら、彼はマリカとは別の気
配に気づいて声を上げる。
〈何だって、パピロがマリカと一緒にいるんだよ!〉

(つづく)




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